資金配分の考え方

宅建業法によって定められ手数料の全額任意売却とはどのように行われるのでしょうか?で解説しました通り、任意売却では各債権者に対して売却資金を配分します。

また、債務者への引っ越し代が必要経費として認めてもらえるよう交渉するとお話しました。

それでは、任意売却の際の必要経費とは、どのようなものが認められるのでしょうか?

以下は、住宅金融支援機構が認めている必要経費の一覧です。昔の住宅金融公庫を含めて住宅金融支援機構の住宅ローンを利用している人が非常に多いため、業界では任意売却の必要経費算出時の暗黙のルールとなっています。

控除できる費用 控除可能額(上限)
1.抵当権抹消承諾料(通称ハンコ代) 第二順位 30万円あるいは残元本の1割でどちらか低い金額
第三順位 20万円あるいは残元本の1割でどちらか低い金額
第四順位 10万円あるいは残元本の1割でどちらか低い金額
2.不動産会社への仲介手数料 宅建業法によって定められた手数料の全額
3.破産財団組入額 売却価格の3%
4.登記費用 登録免許税の全額と司法書士報酬の全額
5.租税公課 抵当権設定前までの税金(優先税と言います。)は全額優先税以外で差し押さえ登記のある債権については、固定資産税1年分または10万円のいづれか低い額
6.管理費や修繕積立金(マンションの場合) 決済日の前日までの全額となりますが、過去5年分のみとなります。
7.引っ越し費用 破産免責などで費用捻出ができない場合などのやむを得ない事情がある場合は、相談により認められる 可能性があります。
8.売買契約書の印紙代 これは認められません。

1.抵当権抹消承諾料(通称ハンコ代)

旧住宅金融公庫時代の融資を利用した人は、物件価格の80%までしかローンを組めないため頭金を20%用意するか?他の金融機関から借入を受けるか?のどちらかになります。

頭金を2割用意できる人は、稀(まれ)だと思いますので多くの人が、2番抵当(年金融資が主流)、さらに3番抵当(銀行ローンが主流)のローンを組む形態となります。

それでは、具体例を紹介しようと思います。

競売での基準価格が2000万円
売却可能な市場価格が2600万円の物件があったとします。

「全抵当権者ともこの市場価格なら妥当だろう。」という了解を得たとします。 私が現役時代は、以下の要領で配分案を設定していました。

残債 配分額
1番抵当権者 2600万円 約2410万円
2番抵当権者 500万円 30万円
3番抵当権者 300万円 20万円
仲介手数料 約84万円
抵当権抹消登記費用 約3万円
租税公課 15万円
引っ越し費用 30万円

1番抵当権者への残債は2600万円ありますが、売却価格が2600万円となり必要経費を差し引くと1番抵当権者への配分で全てが終了してしまいます。

この時、1番抵当権者と相談して2番抵当権者以下への配分を決めていきます。

理由としては、確かに競売を使えば所有者から不動産を取り上げて強制的に売却してしまい回収した金額は、抵当権の順位通りに配分されます。

配分金額によっては、1番抵当権者のみで終わり、2番以下は1円も回収できないにも関わらず、抵当権が抹消されます。

それに対して任意売却は通常の不動産取引と何ら変わりません。仲介手数料もかかりますし、登記費用なども発生します。

それではなぜ、競売ではなく任意売却を行うのかと言いますと、必要経費がかかったとしても「高く売れる」からに他なりません。

高く売れることで、売主にとっても売却後の返済額を圧縮できますし、必要経費として引っ越し代が認められます。

また、1番抵当権者にとっては、多くの債権の回収が期待できますし、1円も債権を回収できない2番抵当権者にとっては、残債の1割(50万円)もしくは30万円のいづれか低い額の回収が可能となります。

3番抵当権者(残債の1割の30万円か20万円のいづれか低い額)も同様です。

2番抵当権者以降にも分配することで、気持ちよく抵当権を外してもらおうという趣旨で分配(ハンコ代と呼びます)しています。

このように任意売却は、債務者、債権者双方にとってメリットの大きい売却スタイルです。

ただし、不動産会社の力量が大きく問われますので、お勧めはこちらの無料不動産一括査定サイトを活用すれば任意売却に長けた業者が見つかります。

その他の必要経費について

2.不動産会社への仲介手数料

不動産会社へ支払う仲介手数料は全額必要経費として認められます。 今回のケースで言いますと2600万円の3%+6万円の約84万円となります。

3.破産財団組入額

破産を申し立てた後に任意売却を行う際は、物件価格の3%が抵当権者以外の債権者への配当原資に充当する必要があります。

この3%を破産財団に組み入れます。破産申し立てをしない人は、この経費は発生しません。

4.登記費用

抵当権を抹消するためには司法書士への報酬と登録免許税が発生します。司法書士への報酬は1債権で1万円以下となり登録免許税は不動産1件について1000円です。

マンションの場合は、1件とカウントされますが戸建の場合は土地、建物がそれぞれ別不動産として1件づつカウントされます。

今回は、マンションですので3万円程度が必要経費として認められます。

5.租税公課

税金関係の不動産の差し押さえが入っている場合は、抵当権者と同様に任意売却の交渉を行います。

理由は差し押さえを外してもらえないと任意売却ができないからです。

どんな税金を滞納すれば差し押さえが入るかと言いますと、固定資産税・都市計画税、所得税、住民税、国民健康保険などです。

自治体や税務署と交渉する際は、代理人として証明できる媒介契約書だけでは代理人と認めてくれません。

別途、委任状で証明するか?場合によっては本人と一緒に来るよう求められることがあります。

役所は、裁判を行わなくとも職権で予告なしにいきなり差し押さえを入れてくることがあります。

私の苦い経験として決済日の前日に差し押さえが入ってしまい決済が流れてしまった経験があります。

何とか買主側に事情を説明して滞納していた健康保険料の数万円を払ってもらい、差し押さえを解除してもらいました。

この時、数万円の滞納だけで済みましたので、即日現金で支払ってもらいましたが、これが数十万~数百万円に至っていたらと思うと「ぞっとします。」

従って、租税公課の滞納は、職権で差し押さえが可能になります。

これによって、税金滞納があると決済ができない可能性が非常に高くなりますので非常にやっかいです。

さて、租税公課の中でも優先税と言って不動産を購入する前に滞納していた税金は必要経費として控除できます。

しかし、税金滞納している状態で住宅ローンを利用して住宅を購入する人は、見たことがありませんので、これはめったにありません。

優先税以外で、差し押さえの登記があっても必要経費として認められる基準としては、「10万円または、固定資産税1年分のどちらか低い金額」のみとなります。

市民税を100万円滞納し、役所から差し押さえが入っていたとしても、売却金額から控除することは、認められません。

基本的に首都圏の場合は、固定資産税が10万円以上するエリアが大半ですので、税金の差し押さえは10万円までしか必要経費としては認められない。と考えてください。

従って、租税公課についても、借金と同様に「どうかハンコ代だけで差し押さえを外してください。」と交渉しなければなりません。

なお、自治体によっては「一切ハンコ代を認めてくれない。」場合もあり全額支払わなければダメ。というケースもあります。

この場合、原因が税金によって任意売却ができない。ことも現役時代に何度かありました。

税金は督促が厳しくないので、「なんとかなるや!」と考えている人もいますが、「職権での差し押さえ」が最も怖くこれによって、任意売却できない。こともあります。

さて、自治体との交渉に臨む際は、1円も払わずに差し押さえを外してくれることは一切ありません。

「元金のみを支払う。」「あとは、3分の1のみを支払う。」などとあらゆる交渉を行います。

また、抵当権者によっては、税金に関しては、必要経費として多めに認めてくれるところもありますので、債権者とも交渉します。

私が現役時代によくやった交渉方法としては、配分案を見せて「2番抵当権者は債権額が500万あるにも関わらず30万円で納得してもらっています。」

とどれだけこの取引が大変であるか?や競売よりも高値で売れることのメリットを強調し、担当者の反応を見ながら粘り強く交渉していきます。

経験上、サービサーは、対象不動産が任意売却されることを前提としている会社が多いのですが、自治体は、納税者個々の事情を加味してくれないケースが非常に多く、 こちらとしても出せる手の内は全て見せて最終的には泣き落としで了承してもらう。スタイルが多かったです。

従って、任意売却は通常の不動産売買のノウハウ以上に各債権者への交渉力が成否を左右しますので、不動産会社の選定が非常に重要になります。

お勧めは無料の一括査定サイトを活用すれば任意売却に長けた不動産会社が多数登録されていますので、ぜひ使ってみてください。

6.管理費や修繕積立金(マンションの場合)

マンションの管理費と修繕積立金は、全額出ると考えていただいて問題ありません。

原則5年までですが、私の経験上、5年も滞納していた人を見たことがありません。

なお、管理費や修繕積立金よりも租税公課を先に支払うようにしてください。

税金関係の差し押さえを回避するために、まずはどんなことがあっても税金関係を先に支払うようにしてください。

管理組合との関係がおかしくなっても、気にしないでください。一時の我慢です。優先順位としては、税金の支払いが第一です。

7.引っ越し費用

原則は不可ですが、交渉すれば30万円以内までであれば認めてもらえます。私の経験上、引っ越し費用の交渉を行って断られたことがありません。

しかし、引越しに必要な費用が全てもらえるわけではありません。足しになる程度だと考えておいてください。

実際の配分例を見てみましょう。

以下は実際に私が現役時代に携わった案件です。

築10年の中古マンション・残債:3500万円

残債 借入先
1番抵当権者 2400万円 住宅金融公庫
2番抵当権者 800万 年金福祉事業団
3番抵当権者 300万円 銀行

A市からの税金滞納による差し押さえ 150万円

Cさんの住宅ローン残債は3500万円あり、ローン返済は毎月17万円とボーナス払いが35万円。他に管理費と修繕積立金が毎月18000円。固定資産税が年間13万円かかります。

このCさんは、リストラに遭ってしまい失業後の毎月返済を何とか行っていたもののボーナス払いが全くできなくなったことから、全く返済ができなくなりました。

そこで、売却の相談を受けたことがきっかけで、Cさん宅を査定したところ2500万円でした。これでは、残債を抹消することもできません。

「役所からの差し押さえも入っていますので、これでは、売却が不可能ですね。」と言ったところ「既に住宅ローンを6ヶ月滞納しており、返済が不可能です。

何とかなりませんか?」と半分泣きそうな顔をしていたところ、「任意売却であれば何とかなります。」ということで、Cさん宅を任意売却するお手伝いをすることになりました。

実際の任意売却の流れは、以下を参照してください。Cさん宅も同様の流れで進めました。

【参 考】

それでは、実際の配分額を見てみましょう。

借金 配分額 残債
1番抵当権者 2400万円 2316万円 84万円
2番抵当権者(ハンコ代) 800万円 30万円 770万円
3番抵当権者(ハンコ代) 300万円 20万円 280万円
A市租税公課(ハンコ代) 150万円 20万円 130万円
仲介手数料 81万円
抵当権抹消登記費用 3万円
引っ越し費用 30万円
合計 3650万円 2500万円 1264万円

この取引の成立可否は、自治体による差し押さえ登記を外してもらえるか?が鍵でした。

幸いなことにA市は、近年の人口流入が非常に多く財源が豊かということもあって任意売却に対する理解がありハンコ代だけで済みました。

Cさんは、リストラによる失業ですが、前年分の住民税や健康保険料を入れると30万円の支出がある他、任意売却を行っても残債は残ります。

(※自宅を売却し抵当権を外しても借金がチャラになるわけではありません。)

さて、任意売却後のCさんとは、売却後の生活についても相談に乗ってあげました。家賃6万円の賃貸を紹介(仲介手数料はサービス)し、奥さんはパート、本人はアルバイトを行いながらの就職活動を行うことになりました。

当初の3500万円という残債を1264万円まで圧縮できたものの、この状態で借金を返せるとは思えません。

Cさんへは自己破産などの債務整理をお勧めしましたが、抵抗があるとのことでしたので、2番抵当権者、3番抵当権者へ「自己破産ではなく毎月数万ですが返済の意思はあります。

何とか再起を図りたい。」ので何とかCさんが希望する返済計画の相談に応じてもらえませんか?と打診しました。

現在、アルバイトで生計を立てているため、「2番抵当権者には2万5000円、3番抵当権者には5000円」という職が決まるまでという条件付ですが承諾いただきました。

また役所へは、毎月3000円ではありますが支払っていただくことになりました。

債権者、役所ともに、担保となる不動産が無くなれば、財産がありませんので取り立てを行っても回収できないわけですから、交渉の際は、返済の意思表示さえ示せば、こちらが希望する条件に賛同いただける可能性が高いです。

しかし、このペースで返済を行っても一生かかっても全額返済が不可能です。

この返済額でも厳しいのであれば、「自己破産などの債務整理」を行うか「債務圧縮の交渉」を行うしかありません。

どの選択を選ぶかはCさん次第ですが、私は借金がチャラになる自己破産を選択されることをお勧めします。

特別企画:高く家を売るための任意売却【目次】
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